いまやま みほ
今山実穂さん
起業を考えたきっかけ
---KEiNAを始める前はどんな生活スタイルでしたか?
大学院を卒業してからは都内で働いていました。就職した先がかなり業務量がある多忙な職場でした。産後に復帰しましたが、時間が足りなくて早朝や週末に出勤して補っている状況でしたので、なかなか子供との時間が確保できないということをずっと悩んでいました。
それが変わるきっかけとなったのが、保育園に入れなくなったことでした。引っ越しと同時に保育園の転園を希望したのですが、そこで保育園に全て落ちてしまったんです。当時は保育園が少ないことが社会問題化していて世間を騒がしていた時期でしたが、まさにその当事者になってしまいました。今までの生活が維持できなくなり、どうしようかと夫婦で話し合って、結論として私の方が仕事を退職する決断をしました。
その後も子供を中心に、週3回コンサルタントとして働いたり、子供が小学校に上がったタイミングでは、社長秘書をやったりと細々とキャリアを繋いできました。
---コロナ禍での生活で気持ちの変化
コロナの流行があって、秩父に帰って来れない期間が長く続きました。それまでは、事あるごとに帰ってきていたのですが、この状態がしばらく続いて、もう少し秩父に帰ってくる時間を自分の人生の中で増やしていきたいと、その時思いました。コロナまでは、これまでのキャリアをどうやって仕事に生かすか、ということばかり考えていたんですが、一旦クリアにして本当に自分がやりたいことや、生きたい生き方とは何だろうと考えるきっかけになりました。
元々大学院までずっと建築を専攻していたので、自分の好きな空間で趣味の料理やキャンプをするような場所を作れたらいいなと思いました。
具体的にコーヒーとハンバーガーのお店にしようと本格的に思いだしたのが2020年の11月でした。
修行と起業
---お店を始めようと考えてから、どのようにに動きだしたのですか?
2022年4月のオープンに向けて、そこまでにどういう経験を積まなければいけないか、必要な資金やどんな手続きが必要なのか、逆算しながら計画表を立ててそれに沿ってオープンまできました。
まずは飲食業界で経験を積んでみようと思い、最初に渋谷のハンバーガーとコーヒーのお店で働きました。オープン準備や、マニュアルの作成をしたり、カフェの開業や運営の基本的なノウハウは、そこで学びました。
他にも私が肉と野菜の師匠と仰いでいる方の下で働き、肉や野菜の取り扱いの仕方や調理方法など出し惜しみなく教えていただきました。あとは秩父のキャンプ場のバイトも経験しました。このようにいくつかのアルバイトをしながら今の形になっていきました。働く際に皆さんには自分がやりたいお店のコンセプトを話して、期間限定でしか働けないことをお伝えしたんですが、それでも快く受け入れていただき、相談にまで乗っていただいて、本当に感謝してます。
---起業する際にサポートや参考にされたことはありましたか?
タイミングよく創業ベンチャー支援センター埼玉の女性向けの起業セミナーの募集があり受講しました。補助金の細かい説明や、どんなサポートをしてくれるのか、起業するにはどうしたらいいのか、講師の皆さんに熱心に教えていただきました。税理士さんや中小企業診断士の方もいて幅広く相談に乗っていただけるところでした。
埼玉や秩父で起業する方はぜひ相談に行かれることをお勧めします。
埼玉県の起業支援金に応募することを決めていたので、オープンするためにしっかり計画を立てて進めてきました。
---コーヒーとハンバーガーのお店にした理由
その2つが好きだったことと、肉の師匠のお店のハンバーガーを出したかったんです。この土地でやるなら、観光客の方とか、通りすがりの方でも食べやすいものがいいなっていうのもあって。
あと小鹿野の毘沙門水で淹れたコーヒーを出したかったので。中硬水でカルシウムが多い水で淹れると、コーヒーの苦味と酸味をバランスよく際立たせてくれるんです。地元でやるからには秩父のいいものを伝えられるような飲食店にしたいというのが根底にあります。
---KEiNAさんの野菜を食べて、野菜のおいしさを再確認しました!
すごく嬉しいです。
その時々の旬のものや、普段スーパーで売ってないような部位とかの地元ならではの食べ方とか美味しさが伝えられたらいいなと思っています。
例えば野菜の根は食べなかったりするんですけど、実は結構美味しかったり、花もすぐしおれちゃうのでスーパーには出ないんですけど、食べてみると美味しかったり、まだ食べたことないようなお野菜の食べ方がたくさんあるので、皆さんに楽しんでいただけるように提供したいです。
農地転用からの地域の課題
---オープンまで大変だったなと思うことはありますか?
大変というか、ネックだったのが、農地転用することがやはり一番難しい手続きでしたね。
ここは農業振興エリアなので、農地転用するにもすごく細かな強い縛りがあるんです。それを許可していただくために、秩父市役所の方に説明に行ったりしたのですが、それが確実に下りるという確信がなかったので、本当に下りるまでは不安な日々を過ごしました。
下りなかったら何も建てられないし、カフェすらできないという状況だったので、本当に最後まで気をもみました。
農政課と農業委員会の方、両方に相談しました。元々自分も公務員だったので、農地転用がどれだけ難しい手続きか、日本の農業がどういう状態なのかという知識は多少あったんですが、転用するためにいろいろと調べていくと、この農地が地域の課題そのものにも繋がってるんだというのが見えてきました。
逆にそれだけ難しい手続きだったからこそ自分もすごく勉強したし、それによってこの地域の課題にも気づけるきっかけになったので、それはすごくよかったなと思います。
ご家族のサポートとそれぞれの役割
---お父様やお母様、ご主人様も一緒に関わっていただいてるということで、皆さんの役割分担を教えてください。
父がこの土地の維持管理を担当してくれています。「近くに流れている川でみんなが遊べるようにしたいね」と言ったのがきっかけで、父が整備をしてくれて、川で蟹やエビを取ったりできるようになりました。
母は基本的にKEiNAで提供する野菜を無農薬で作ってくれてます。母は病気を患ったのをきっかけに自分の食べるものに対してすごく意識が向くようになって、無農薬野菜を作り始めました。今はKEiNAのために常時20種類くらいの野菜を作れるように、年間の作付計画を母と一緒に相談しています。
2拠点生活について
---1週間はどのようなスケジュールで東京と秩父を行き来されているのですか?
基本的に私は金曜日に娘の学校が終わったら娘を連れて秩父に帰ってきて、前日に出来る仕込みを済ませて、土日営業して、片付けが多く無ければ日曜日に家族と一緒に帰りますし、片付けの量が多いときは私だけ秩父に残って月曜日に帰る。そういった生活を送ってます。
---2拠点生活で「お父さんとお子さま」の絆が深まったようですね
そうなんですよ!娘と夫の絆もこれですごく変わったみたいで。KEiNAを経営するようになってからは、夫が遊び相手にもなるし、勉強も見てくれています。
夫も私の人生と一緒に、考え方を柔軟に変化させてくれています。
---秩父で過ごす時間が増えて、お子さまに変化はありましたか?
この秩父の2拠点生活を始めるまでは虫が苦手で、家で絵を描いている時間がすごく好きな子だったんです。東京は意外と公園も少なくて、遊びに行くとしたら学童か家の中みたいな生活を送っていました。秩父のような自然に囲まれた環境になると外でも遊ぶようになり、自転車にも乗れるようになり、活発になりました。自然に対する理解も深まって、今までは食べ物は食卓に出てくるものだという認識だったのですが、母の農業のお手伝いをして、農作物に対する知識も深まりました。自然が教科書となって彼女に学びを与えてくれてる気がしますね。
親から見てもすごく生きる幅や感性の幅が広がったように感じます。
---おじいさま、おばあさまとの時間も増えたんでしょうね
子どもにとってもう一つ良かったのが、おじいちゃんとおばあちゃんと触れ合う時間が増えたことです。子どもにとっても第2の故郷ができるというのはすごくいいことだと実感してるので、ずっと2拠点生活は続けていきたいなと思っています。
---ご主人様もお店にでられていますよね
主人と私で建物を設計しました。夫は設計士なので、KEiNAの建物の設計から、内装まで一緒にやってくれました。秩父で建てるからには地元の方々にお願いしたいという思いがあり、施工は秩父の工務店さんにお願いしました。
夫は飲食業の経験はないのですが、今までやっていた仕事と180度違う仕事をすることによって、何か新たな気づきや楽しさがあるみたいで、自ら進んで手伝いに入ってくれてます。
家族との時間を取りたいということがきっかけで始めた形だったんですが、結果的には家族がそれを共感してくれて、積極的に手伝ってくれることで、また一層家族との時間が取れ、絆が深まりました。
今後の展望
---KEiNAをオープンする過程や、お客様と接する中で様々な地域の課題に直面されていると伺いましたが、今後はどのような取り組みをしていきたいと考えていますか?
都内に住んでいる人で、秩父のような場所に住みたいと思っている人は多いと思います。
移住となると、ネックになってくるのが仕事や子育ての環境だと思うのですが、そういう意味で言うと、秩父は2拠点生活にすごく向いてるんですね。
本当に秩父の肌感が合うかどうかというのは、まずは住んでみて過ごしてほしいなと思っています。でも住むとなるとハードルが高いので、トライアルで簡単に2拠点生活ができるような支援ハウスとか施設があると素敵だなと思います。
農業をしたい人に農地を紹介したりなど、農地を有効に活用できる取り組みをしたいとも考えています。まだアイデアベースなんですけれどもいろいろと膨らませていけたらと思います。
KEiNA CHICHIBU
https://keinachichibu.com/